とあるひのこと
「…どっちとか分かるのか?」
「ん、待って」
立ち止まって静かにすると、むつは真っ暗な森の中に視線を向けた。何も見えないはずだが、何か感じる物はあるのかもしれない。
「あっちだと思う」
そう言って、むつは導かれるようにふらっと歩いていく。ライトで足元を照らしても居ないのに、しっかりとした足取りで歩いていた。西原は置いていかれないようにと、むつの後を追って行った。祐斗と菜々も置いていかれないようにと、一生懸命だった。祐斗は、菜々の足元をしっかりと照らしていたが、ヒールの有る靴では、舗装されてない道は歩きにくいようで、ゆっくりとではあった。それに比べて、やはりヒールの高い靴なのにむつは平然と歩いていた。
「何が居るとか分かるのか?」
「それは分かんない…でも、子供?」
「子供?」
「そんな気がする。弱ってるから、そう思うだけなのかもしれないけど…」
「ふぅん?どっちにしても早く見付けてあげないといけないだろうな」
「…先輩、優しいよね。誰にでも」
「ヤキモチ?」
「ちょっとだけね」
くすっとむつが笑うと、西原もくすっと笑った。そして、そっと手を伸ばしてむつの手に触れると、むつは当たり前のように手を握った。
「手冷たいな」
「冷えてきたのかも」
「なら、早く片付けて帰らないとな。夕飯食いっぱぐれたら、悲しくなるからな。京井さんの所ってなると、飯が1番楽しみなんだよな」
「何食べても美味しいもんね。あんな人なら相当モテるんだろけど…」
「浮いた話なさそうな人だよな」
「残念な事にね」




