とあるひのこと
「そこそこ、山の中ね」
「うん、まぁ…陶芸だからかな?」
陶芸の体験が出来るという小屋に着いた2人は、辺りを見回してた。森に囲まれた中で、ぽつんっと立っている小屋が寂しげな雰囲気をしている。だが、中からは楽しげな声が聞こえてきているし、2人の他にも予約の客は居るのかもしれない。
西原は入ろうとしたが、むつは立ち止まっている。手を繋いだままで居るから、西原も立ち止まってむつの視線を追うようにして辺りを見回した。
「何か居るのか?」
「…かな?分かんない。けど、居てもおかしくはない雰囲気だよね。ま、いっか…行こ。寒いし」
何か気になる事があるようではあったが、気を取り直したようにむつは西原を引っ張って、小屋に向かって行った。少し立て付けの悪い戸を開けて入ると、話声がぴたっと止まった。
「お話中にすみません。14時から予約をしている西原です」
西原が名乗ると、こちらに背を向けていた2人が、ばっと振り返った。その顔を見て、むつがあっと叫ぶと西原も驚いたような顔をしていた。
「祐斗君と菜々ちゃん…」
「西原さんとむつさん…」
祐斗と西原は互いの顔を見て、驚いたような顔をしているが、むつと菜々はそうでもないようで、ひらひらと手を振り合っている。菜々が自分の横の丸椅子をぽんぽんと叩くと、むつは西原の手から離れてそこに向かっていき、すとんっと座った。
「菜々が居るとは思わなかった。午前中は、どっか行ってきた?」
「うん、博物館行ってきた。むつは?」
「酒粕のお風呂。触って、すべっすべなの」
腕まくりをしたむつは菜々に触らせている。
「あ、本当…ってあんた元々肌だけは綺麗でしょ?顔はたまに肌荒れしてるけど」
「うるさい、ほっとけ」




