とあるひのこと
脱いだ服と浴衣をかごに入れて、むつはかけ湯をしてから、ゆっくり湯につかった。そして女性が持ってきた巾着を湯につけた。椿の花があしらわれた、可愛らしい巾着を湯の中で、ゆっくり揉み込む。すると、すぐにふわっと酒の香りがしてきた。しばらくそうしていると、香りが充満し、湯も少し濁ったような乳白色になった。
むつは湯船のふちに腕を出して顔を乗せると、西原の方を見た。西原は相変わらず、背中を向けている。しばらくは、ゆっくり湯を楽しんでいたむつだったが、だんだんとつまらなくなってきた。これでは、1人で家の風呂に入ってるのと変わらない気がしたのだ。
きょろっと辺りを見回したむつは、備え付けの棚にバスタオルが別にあるのに気付くとそれを身体に巻き付けた。そして、そっと窓を開けた。
「…先輩?」
「ん?もう出たのか…」
寝てるかと思ったが、起きていた西原は振り返って、むつの姿を見ると氷ついたように固まった。
「ばっか…お前っ‼ゆ、浴衣も服もあるだろ、着ろよ」
「ん、もうちょっと入るの…ね。い、一緒に…は、入らないかなって思って…」
「…酒粕で酔ったか?」
「酔ってないって。折角、一緒に来たのに1人だと…つまんないんだもん」
顔を真っ赤にしながらむつが言うと、西原は靴下を脱いでから立ち上がった。
「…冷えるから入ってろ。俺も入る」
服を脱いで、かごに放りこみながら、西原はむつの背中を押して湯の中に戻した。じゃぶっとタオルを巻いたまま、湯につかったむつは、服を脱ぐ西原は背中を向けていた。




