ひとりきり
「祐斗、先に昼休行ってこい。俺、もうちょいやるし、湯野ちゃんも…まだ終わりそうにないしな」
「あ、はい…そうします」
珍しくもパソコンに向かって真剣に何かをしている山上と、奥で客からの相談を受けている湯野を気にしつつも、祐斗は山上の言葉に甘え、財布と携帯を持つと外に出た。そして、2枚目の手紙をこっそりと開けた。
祐斗は手紙に書いてある通り、最近は行っていなかった場所に向かって歩き出した。
商店街の歩き、細い路地の奥に赤提灯の居酒屋が見えた。暖簾が出ているから営業中なのだろうが、相変わらず閑古鳥が鳴いていそうだった。
祐斗は鶏いちと書かれた赤提灯を見て、暖簾を潜りながら引き戸を開けた。
「こんにちはー」
「お、祐斗君。いらっしゃい。たまちゃんの指示通り来たね」
ひょろりとした男がタバコをくわえたまま、祐斗を出迎えるとふにゃっと笑った。
「戸井さん何か聞いてるんですか?」
「ん?まぁ…何にも?」
鶏いちの店長である、痩せ細った男、戸井はにこにこしながら、はっきりしない返事をした。
「ま、ゆっくりしていきなよ」
「はぁ…そうします」
祐斗は差し出されたメニューを見ながら、何にしようかと悩んだ。この前の仕事で特別手当てが出るので、さほど財布の中身を確認する必要はない。それに、ここは量と味のわりに安い。




