とあるひのこと
「似てきましたよ。そう言われるのが、むぅちゃんにとって、良い事かどうかは分かりませんけど」
「うーん、微妙。お母さんの事を知らないからね、何とも言えないかもしれない」
むつはほんのりと残っている酒に視線を落としていた。京井は、むつの様子に懐かしい物でも見たのか、微笑んでいた。
「それで、何かありましたか?」
「…うん?うーん、まぁ…あったかな?明日、先輩とデートになった」
さらっとむつが答えると、冬四郎がこほっとむせた。西原もまさか、むつが言うとは思ってなかったのか、見開いた目で何度も瞬きしている。
「おや、そうでしたか。こさめさんには篠田さんが居ますし、朋枝さんと谷代君も仲良くなってましたし…そうですか」
何がそうなんだと冬四郎が言いたそうにしているが、むつはそれを見てみぬふりをした。
「楽しみですか?」
「ちょっと…うん、ちょっと楽しみ」
照れたように、ぼそぼそっとむつが言うと、京井は笑みを深めてむつの頭をそっと撫でた。冬四郎は、西原の方に意味ありげな視線を向けたが、何も言わない。西原の方は、平然としているようではあったが、冬四郎と京井の前でむつが明日の事を楽しみだと言うと、少し頬を赤くしたが、それと同時に緊張もしてきていた。
「…あたしもお風呂入ろーっと。しろーちゃんと遥和さんまだ居る?」
「え、えぇ…もう少し宮前さんと呑もうかと思ってますよ。お風呂出たら戻ってきますか?」
「うん、待っててね」
残っていた酒を飲み干すと、むつはぱたぱたと2階に上がっていった。京井は微笑んで見送っていたが、振り向いた時には怖いくらいの真顔になっていた。西原は緊張するように、背筋を伸ばして正座した。それを見て、冬四郎が堪えきれなくなったように、ぶはっと吹き出して肩を揺らして笑っていた。




