とあるひのこと
「そりゃそうだろ。お前は能力使えないのに意地はって仕事するんだからな」
「それもある。今回は色々、やばかった…あたしも、ちょっと反省した」
「なら、次に是非ともいかしてくれ」
「…覚えてたら、で」
「きっと忘れてるな」
西原が苦笑いを浮かべると、むつは威張ったように頷いた。ようやく、いつものむつらしくなったなと西原は、ほっとしていた。そして、やっぱり今は聞きたい事は、聞かないでおこうと思った。だが、むつは西原が何を言おうとしていたのか気になるようで、次どうぞといった感じの視線を寄越していた。
「…あのさ、明日俺と出掛けないか?」
全然、考えてもいなかった事がつい口から出ると、むつもだが西原も少し驚いたような顔をしていた。
「な、何で…先輩が驚いてるわけ?」
「いや、意外と噛んだりせずに言えたなって思ったから。で、デートに誘ってるんだけど、どうだ?」
きっぱり断られるかと思ったが、それこそ意外にもむつは悩んでいる。悪くない反応だなと思った西原は、畳み掛けるように言った。
「こさめさんは篠田さんとデートだろ?菜々ちゃんは祐斗君といい感じになってたし…何でか知らないけど。だからさ」
むつは思い出すように、少し空を見上げた。確かに、こさめには篠田とゆっくりと過ごして欲しかった。篠田が仕事で忙しかったりして、一緒に出掛けたり出来ていない事をむつも知っていたのだ。だからこそ、明日はこさめに篠田と過ごして貰うつもりではいた。それに、菜々もだ。西原の言った通り何故か、知らない間に祐斗との仲が良くなっている。菜々が祐斗を気に入ってたのは知っていたが、たった数時間でここまで2人の距離が縮まるとは思ってもみなかった。




