とあるひのこと
電車からバスに乗り換え、ようやく着くとバス停には京井が迎えに来てくれていた。
「お疲れ様でした。かなり、遠かったんじゃありませんか?」
「ちょっとね。でも、やっぱりお迎えお願いしなくて良かったと思ってるから」
「それなら、良かった。荷物持ちますよ」
「ん、なら…それはお願いします」
京井はむつ、菜々、こさめの荷物を軽々と持ち案内をすると言い、先頭に立って歩き出した。むつは京井の隣を歩きながら、辺りを見回した。森に囲まれた所で、細い小路が1本あるだけだった。夜にもなれば、真っ暗になりそうだが、よく見ると足元を照すようの提灯の形をしたライトが、目立たないように設置されていた。
「遥和さんがデザインも手掛けてるの?」
「えぇ。ですから、どうしても和風にしかならないっていうのが…洋風は苦手ですね」
「でも、こういう方があたしは落ち着く。遥和さんの言った通り、来て良かったかも…ありがと。お料理も楽しみにしてるからね」
「任せてください。元々が料理人なんですから、お料理の方は自信持ってお出ししますよ」
頼もしく京井が請け負うと、むつはにっこりと笑って頷いた。事務所で見せていたような、無理をしてない笑みは、来た事を本当に喜んでいるような、屈託のない笑顔だった。




