ひとりきり
平日は大学の講義にサークル活動、友達との付き合いをし、土日はアルバイトといたって健全な生活を送っている青年。
今日は久しぶりのアルバイトとあって、少し、本人にとってはほんの少しだけ嬉しい気持ちのつもりだった。端から見れば、良いことでもあったのかな?と思える程に見える事には全く気付きもしない。
「おっはよーございまーす」
ドアを開けいつも通りに挨拶をしながら入る。見慣れたデスクには、誰一人としていなかった。
早く着きすぎたかな、と思い壁掛けの時計を見ると、営業開始の20分前だった。早くも遅くもない、時間なのにも関わらず誰も居ない。
自分の使っているデスクに鞄を置き、備え付けの小さなキッチンやパーテーションで仕切ってある、来客用のソファーを覗いてみた。
青年は、二十歳を越えているにしては幼さの残る顔を少し不安げに曇らせた。
「お、祐斗」
ドアを開き、無精髭に鋭い目付きをした40代の男が入ってきた。祐斗、と呼ばれたアルバイトの青年、谷代 祐斗はぱっと振り向いた。
「社長、おはようございます…誰も居ないんですけど…」
社長と呼ばれた40代の男、山上は片手に持っていた缶コーヒーを1本、祐斗に投げて渡した。




