とあるひのこと
何の話かと、むつが山上を見ると山上は晃の方をちらっと見た。山上と晃、どちらが話すかを譲り合っているかのようだった。唇を少し尖らせたむつは、買ってきたばかりの温かいたい焼きを見た。冷める前に食べたいが、年長者から話があるのなら、手をつけるわけにはいかないのだ。むつの視線に気付いたのか、西原がくすりと笑った。すると、むつはぷいっと顔を背けて、ソファーにもたれかかった。
「…あの、私からお話しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。何て話したら良いのか…うーん、むつ。温泉に行かないか?」
「行かない」
晃が言うと、むつは考える間もなく、少し晃の言葉にかぶせ気味に、きっぱりと言った。あまりにもはっきりと断られ、晃がしゅんとしたように項垂れると、山上がぽんぽんっと肩を叩いて慰めていた。これで話は終わったと思ったのか、むつはたい焼きの方に視線を戻した。
「むつ…たい焼き食べながらでいいから。ちょっと聞いてくれ、な?ちゃんと聞いてくれ」
年長者からの許しが出ると、むつはたい焼きを手に取って、ぱくっと頬張りふんふんと頷いた。その頷きが、たい焼きの味に対してなのは、山上も聞かずとも分かっていた。




