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あこがれとそうぐう
「篠田さんは憧れていたものと遭遇して、怖さも知っただろうね。ま、きっと懲りないだろうけどさ」
冬四郎はハンドルを握ったまま、そうだな、と笑った。
「良い体験はしても良い薬にはならなかっただろうな。曰く付きがあるって知って喜んでたしな」
むつは頷いた。
「ねぇ、まだ帰るには早くない?」
「…どっか行きたいのか?」
「買い物っ‼」
「またぁ?!」
不満そうな冬四郎の太股をぺしっと叩いた。
「カーテンとか生活雑貨。引っ越したは良いけど、まだ買い物も片付けも進んでないの、お願い‼ご飯奢るから‼」
「なら、むつのてづ「あ、待って電話」」
またもや被せ気味に言われ、冬四郎は黙るしかなかった。
「もしもーし?何?…えっ!?あーうん、はぁ…はいはい…えーっ‼…えぇ、やだぁ…はぁ、分かった、分かりましたよぉ、社長にバカって言っといて」
「どうした?」
「篠田さんが、あたしらが帰ったのを社長に言ったんだって。で、仕事あるから寄り道するなって…悲しい」
「買い物は、また今度だな」




