るーぷ
「本当に区別つかないみたいね…あたしは、あの人は人間な気がするけど」
「ですか?俺にはもう何が何だか…」
祐斗は深い溜め息をついて、背もたれに背中を預けると、足を投げ出すようになっている。どうしようもなく、投げやりになりつつあるのだろう。むつはそんな祐斗に同情しつつ、ゆっくりと待合室を観察し始めた。
2人が座っているソファーの前にも、名前を呼ばれるのを待っているらしき人が1人座っている。だが、この人は確実に人間ではない。むつが口をすぼめて、ふーっと勢いよく息を吹き掛けると、陽炎のようにゆらゆらと揺れた。むつが遊んでいるのかと思った祐斗は、むつの膝を叩いたが、むつは真剣そのものだった。
「真顔で遊ばないでくださいよ」
「遊んでないってば。話しかけられないもん、こうやって確かめてみてるの」
「視たら分かるでしょ確実に違うって。向こう側が透けてるんですからっ‼」
寄り添うようにして顔を近付け、ひそひそと話していると、前の人が振り向いた。祐斗は驚いて固まっているが、むつは微笑んで首を傾げているだけだ。相手は何も思わなかったのか、また前を向いた。
「聞こえてたのかもね」
「でしょうね…それとも生きてる人間なのが珍しいのかもしれませんよ」
「有り得る」
自然な状態で知らん顔を決め込んでいるむつとは反対に、体調が悪くなかったはずの祐斗の顔色はだんだんと悪くかなっていくばかりだった。当初は、現場手当てが給料にプラスされるからと嬉しく思っていたが、そんなものいらないから早くここから出ていきたかった。




