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あこがれとそうぐう
むつは立ち上がると、何も言わずに冬四郎が泊まった部屋。先程、むつがこさめと入っていった部屋のドアを少し開けた。
「篠田さんは決めましたよ」
それだけ言うと、少しドアから離れた。何を待っているのか、むつの視線はドアの方を向いたままだった。
室内から開けられるように、きぃっとドアが少し鳴った。そして、出てきたのは、すらっとした艶っぽい女だった。
篠田と冬四郎は大きく目を見開いた。
むつが手を足し出すと、女はゆっくり歩いて部屋から出てきた。
「こさめちゃんですよ。人型の影響で猫又という妖になりかかっていたんです。猫が喋るの正体は、そういう事です」
篠田はソファーから立ち上がった。
「後は、篠田さんとこさめちゃんがお話をするべきと思いますので…わたしと宮前さんは外に出ようかと思いますが」
「いえ、居てください。…いいかな?」
こさめは頷いた。久しぶりに篠田に声をかけられたのだろう。少し嬉しそうな顔をしていた。




