るーぷ
むつと颯介が一緒に出社すると、すでに鍵は空いており、3つずつ並び向かい合わせになっているデスクには1人の青年と、1つだけ独立したデスクに無精髭の男が座っていた。
「おはよーございまー」
「おはようございます」
2人が入っていくと、青年がぱっと笑みを浮かべた。むつと颯介の勤めている会社、よろず屋のアルバイトの谷代祐斗だ。
「おはようございます」
「おはよーさん」
1つだけ独立したデスクに座っていた男、よろず屋の社長である山上聖は少し適当な感じの挨拶をした。
「むつさん、これ朝出してきた郵便物です」
「ん、ありがとう。祐斗はもう冬休み?」
「まだですよ。今日は試験ないので」
颯介と祐斗が座っている席の後ろにある、ホワイトボードを眺めたむつは、そっかと頷いた。鞄を置いて、マフラーとコートの脱ぐと、むつはキッチンに向かっていった。
「祐斗と社長は?いれ直す?」
「頼む」
狭い簡易キッチンに入り、まだ湯気の出ている電気ポットに水を足してスイッチを入れた。湯が沸くのを待っている間に、むつは脱いだコートとマフラーを持って奥の倉庫兼ロッカーに入っていった。
アルバイトを含めて、4人しかいない弱小会社ではあるが、むつはきちんとシャツを着ている。だからといって、スーツという感じではなくシャツに動きやすいチノパン、ジャケットにブーティという出で立ちだった。一緒に出社した颯介も、チノパンにスニーカーとラフだった。それもそのはず。むつたちの仕事は、人を相手にするのではなく妖や霊などという、人の理からは少し外れた物たちなのだ。いつ、どんな状況になるか分からず、常に動きやすい服装を心掛けている。だが、そんなに緊急の仕事が入るわけでもなく、のんびりとした職場だった。




