るーぷ
西原はむつの仕事を知っているだけに、曖昧に頷いた。特殊な仕事の事を話すからと言って、わざわざ横に来なくても良いような気もしたが、ふわっと香る甘い匂いと少しとろんとした目に見つめられ、どぎまぎとした西原は咳払いをした。
「あ、水餃子も追加しよー」
話す気があるのかないのか、むつは店員を呼び止めると、水餃子と焼き餃子を追加した。
「先輩、お腹余裕でしょ?」
「あ、まぁ…ってお前そんなに食えない感じだろ?何で頼んだんだ」
「餃子が食べたかったんだーって。どれもニンニクも韮も入ってないから、大丈夫」
「…それは有り難いな」
「でしょ?」
むつはざくっとした揚げ餃子を取り、かぶりついてはいるが、以前のような食欲はまだ戻っていないのか、小振りな餃子であっても一口ではいかない。それでも、食べているむつを西原は頬杖をついて横から眺めている。
「で、話は?」
「んー?まぁそれもだけど…今日ってそもそもは先輩が呼び出したんだよ?先輩はお話ないわけ?」
「…それは、まぁ大した事じゃないし」
「そーなの?」
西原の言葉を信じていないのか、むつはじっと西原の目を見ている。だが、本当に西原が呼び出した理由は大した事ではなく、嘘をついているわけでもない。そうと分かったのか、むつは背もたれにもたれた。
「あぁ。だから、話せよ。会った時からちょーっと不機嫌そうだったしな」
「そんな事ないと思うけど…」
西原の方を向いたむつは、少し頬を膨らませていたが大ジョッキを両手で持つと、ちびちびと呑んだ。先程までの勢いは、もうどこにもない。急に大人しくなったむつを見て、西原はふふんっと笑った。単純で切り替えの早いむつは、もうすでにどうでも良くなっているのかもしれないが、会った時まで引きずっていたとなると、それなりの事だったのだろう。それを西原はまだ少し気になっている。
「…で、そんなに大変な仕事だったのか?」
「うーん…昨日ね」
ようやく話す気になったのか、むつはビールを一口呑みジョッキを置くと、西原の方に少し寄り話を始めた。




