うんめいとは
むつは、手を洗い口をすすいでからは本殿までの道のりをむつはゆっくりと歩いていた。ゆうゆうと伸びている木々は冬のせで、葉が落ちて寒々しい姿をしているが、春になれば緑が美しくなるだろう。
「綺麗な場所ね」
「えぇ、空気も澄んでますし。きっと良い方が見守られてる場所なんでしょうね」
京井は口元に笑みを浮かべてそう言いつつも、細めた目は鋭く辺りを見回している。西原と山上は特に何も思う事はないのか、大木を見上げて立派だなーとのんびりとした会話をしている。
「遥和さんはさっき、呼ばれたんじゃないかって言われたけど…どういう事?」
「…ここに居られる方がむぅちゃんの力に気付く、むぅちゃんも無意識のうちにここの方に気付く…で、そうですね。引き寄せられたとでも言うべきかもしれませんね」
「磁石みたいな感じかしら?」
「そんな感じですね。むぅちゃんの周りに、私みたいな妖が集まるのと似てるのかもしれませんね」
「…良い事なのか悪い事なのか分かんないけど?でも、他の人よりかは出会いが多いって事なのは分かる」
「それは良い事ですよ。相手の良し悪しに関わらず。何かしら、むぅちゃんの刺激に体験になって、色々な事を学べるはずですからね」
むつは京井の横顔をまじまじと見つめていた。
「…どうしました?」
「いや、遥和さんってば大人だなーって。あたし、ちゃんと成長してる?」
「成長してますよ。初めて見た時は、両手に収まってしまうんじゃないかってくらい小さかったんですから」
「身体の話じゃなくてさ…」
「成長してますよ、きっと。そういう事は今すぐに分かる事ではありませんから…今日のした事、聞いた事は何年後かにあぁ…って思えるものです」
「遥和さんみたいに長生きだと、そういうのがよく分かるのかもしれないね」
「そうですね。長く生きるのも楽しい事ばかりではありませんけどね…さ、お詣りして買い出しに行きましょう」
むつは財布から小銭を取り出すと、賽銭箱にぱらぱらと入れた。そして、お辞儀をして柏手を打って、改めて名乗り近くに引っ越してきた事を報告した。願い事をしに来たわけでもないので、よろしくお願いします、とだけ言うとどこからか風のようにこちらこそ、と聞こえた気がした。はっとして目を開けきょろきょろと辺りを見回すと、本殿の横の大きな木の枝に誰かが座っているように視えた。むつは枝をじっと見つめていたが、そこにはやはり何もない。
「あちらの方もご挨拶してくださったようですね」
「…うん」
参拝を済ませた西原と山上はすでに、来た道を戻りながら、むつと京井を呼んでいる。むつは、はーいと返事をしてからちらっと木の方を見た。だが、誰もいない。ふぅと息をつくと、ぱたぱたと走っていった。




