うんめいとは
気を取り直したのか、むつはローテーブルの上の灰皿でぎゅっとタバコを揉み消すと、鞄を下ろして袖をまくった。
「あ、箱。先輩、荷物をつめる箱‼」
「はー?何かないのかよ?」
「スーパーで貰ってこいよ。ついでに、飲み物とか買い出し頼む」
食器を片付け始めていた西原に、むつは財布とキーケースを渡した。
「これで買い物してきて。オートロック自分で開けて。あ、あとごみ袋もうちょい買ってきといて。ガムテープも必要」
「他は?あったら電話してくれ」
むつの財布を受け取るかで悩んだ西原だったが、むつがずいと押し付けてきたので、むつの財布を使って買い物をする事にした。西原が出ていくと、むつはすぐに部屋に引っ込んで、また溜め息をついた。
「…溜め息、多いな。幸せ逃げるぞ」
「そんなんで逃げる幸せなんて、大した事ないやつよね?」
「お前なぁ…なぁ、ぶっちけ西原とはどうなんだ?最近ほら、養子離縁の話も聞かなくなったけど」
「先輩と…仲はいいと思うよ?うーん、ね。ちょっと悩んでる色々と。何かさ、お兄ちゃんならずっとお兄ちゃんなわけよね?でも、誰かに取られるの嫌だし…だからって、あたしがどう出来るわけでもなくってさ」
「ははぁ…兄離れ出来ないって事か。でも、むつだってそのうち誰かと付き合ったり結婚したりするわけだろ?まぁ…お前、あれだろ?みやの事…」
「最後まで言わないで。そう、そうだから…って思ってたけど、最近はよく分かんない。でも、あたし結婚はしないから」
「今から結婚しないなんて、決めつけなくていいだろ?」
「かな…?でもさ、あたしみたいな能力のある子が…って思ったら、ね。結構さ苦労したし悩みも増えるからね」
「…結婚するイコール子供を授かるじゃないだろ?」
「でも、結婚するなら欲しいもん」
「難しいな。むつは、能力があるからって不幸せってわけじゃないだろ?だったら…」
「色んな出会いがあったからね。でも、やっぱさ…ふつーの女の子に憧れる」
「無い物ねだり、ってやつだな」
「うん…ね、そんな事はいいの。考えても答えは出ないもん。その時が来たら分かるよ。それより‼手動かして、手伝いに来てくれたんでしょ?」
「え…まぉそうだけど。めんどくせぇ」
自室から顔を出したむつは、転がっているクッションを拾い上げると、山上の後頭部に向かって投げ付けた。




