うんめいとは
上に乗っていた西原を押し退け、むつが移動すると、運転席に座っていた山上が振り返って、にやっと笑った。
「寄り戻したわけじゃねぇんだな。その様子じゃ昨日のはただのスキンシップか?折角、西原、お前はむつの部屋に泊めてやったのに」
「わっ…わざとだったの?先輩、影薄いから忘れ去られてたのかと思った」
「ばか。違ぇよ」
「…そっか。良かったね、先輩」
忘れられてなかったよ、とむつは言いながら、西原の頭をよしよしと撫でた。西原はその手を払い除けると、ふんっと息をついた。むつと西原が、楽しそうにじゃれているのを聞きながら、山上はエンジンをかけると車を発進させた。
「あ、ねぇねぇ…そんで、2人はどこでご飯が良いの?お財布戻ってきたから、何でも言って」
「寿司」
山上がバックミラーで、ちらっとむつを見ながら答えると、むつはふむと言った。
「回るやつ?」
「…あ、お前まだ回転寿司行った事ないんだったよな?そっか…けど回らない所がいい。っても、なぁ…」
「むつは、あんまり寿司食べないですもんね。鯵、烏賊、鯛くらいですからね」
「鮃と鰤も食べるもん」
「5種類…なら焼き肉か、普通に呑みに行こう。むつが呑めるなら、だけどな」
「呑めるし」
「昨日、ワイン1杯で顔真っ赤にして1人じゃ部屋まで行けなかったくせに?」
「うるさい。社長は好きなの言ってるけど、先輩は?何が良い?」
「…俺なぁ、むつの手料理」
「脚下」
「即答すんな。それなら、落ち着いてから3人で呑みに行くって事で。店は山上さんにお任せしますんで」
「店かぁ…赤い提灯の店ばっかしか分からねぇ」
山上は、ふーんと悩みながらのびのびと車を走らせていく。むつは少しだけ窓を開けて、入ってくる風にあたっていた。




