うんめいとは
結局、置いてかれた西原はソファーで眠り、むつはベッドで眠って朝を迎えた。熱が完全に下がったむつは、起きると先にシャワーを浴びて、着替えを済ませて軽くストレッチをした。あまり身体を動かしていなかったせいか、腰をひねるとばきばきと鳴った。ゆっくりとストレッチを終えると、備え付けの簡易キッチンで湯を沸かしてコーヒーを入れた。
カーテンを開けると、眩しい日差しが入ってきてむつは、嬉しそうに目を細めた。天気はよく引っ越し日和となりそうだった。むつがコーヒー片手に、のんびりと過ごしているとドアがノックされた。言い付けを守って、ドアスコープを覗いてから鍵を開けた。
「あ…おはようございます。もう起きてらしたんですね。顔色もいいですし、早くも本複って所ですか?」
「おはよ。うん、もう大丈夫そう。遥和さんの献身的な看病のお陰かな?」
くすくすと笑いながらむつは京井を部屋に入れると、まだ西原が眠っているからと人差し指を口に当てて静かにとジェスチャーで伝えた。京井はひょいっとソファーを見てから、こくりと頷いた。
「入居出来るのは明日からだから、今夜はもう1泊だけさせてね」
「…明後日からは居なくなってしまうんですね。毎日、顔を見れていただけに寂しくなりますね」
「そうね。あたしも、毎日みんなが来てくれてたから賑やかで楽しかったけど…寂しくなりそうだわ」
京井と一緒に朝食の支度をしながら、むつはふぅと溜め息をついた。引っ越しをして、新しい場所での生活は楽しみではあるが、そうなると毎日冬四郎が京井が来るわけではなくなる。それが当たり前と言えば当たり前の事だが、心細いし寂しくも思う。むつが寂しそうな顔をすると、京井は優しげにむつの頭を撫でた。
「…そしたら、誰か呼べばいいだろ?」
後ろから声がかかり、むつと京井は振り返った。ソファーの上で、うつ伏せになり頬杖をついている西原が大きな欠伸をしている。
「あ、起こしちゃった?ごめーん」
「いや、そうでもないぞ…おはよう。京井さんはともかく、むつも早起きだな」
「うん、熱も完全に下がったっぽいしね。頑張って荷造りしないと」
「…ハードな1日になりそうだな」
「そうですね。ですから、朝食はしっかりと召し上がってくださいね。山上さんは朝食終えたら下のロビーで待ってるそうですよ」
「えっ…もう起きてるの?」
「まじか…先にシャワー浴びてこよ」
欠伸を噛み殺しつつ、西原はばたばたと風呂場に向かっていった。むつは京井の用意してくれた朝食を先に、もごもごと食べ始めた。




