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うんめいとは
むつが自分の方を向かないと分かると、西原はそっとむつの腰に手を回して引き寄せた。こつんと、むつの肩に顎を置いて、耳の後ろに唇を押し当てた。むつはぴくんっと肩を震わせた。
「なぁ…」
西原の低い声にむつは、ふっと息を吐いた。
「なぁ…無視されるのは辛い」
「何よ、もう…」
投げやりのような言葉ではあったが、言い方はそうでもない。背中をぴったりと西原の胸につけて、重ねるようにして手を置いた。
「…落ち着く、むつと居ると」
むつはふふっと笑うと、手を伸ばして西原の頭を撫でた。西原は甘えるようにして、むつの首筋に顔を埋めている。
「な、寄り戻したいって言ったら…困るか?」
ぴたっと手を止めたむつは、西原の手に自分の手を重ねて置いた。微かに震えているむつに気付いた西原は、くすっと笑った。
「…ごめん」
「ん…あの、さ…嫌いとかじゃないよ。本当に…今も嫌じゃないし」
「それなら良かった」
西原は嬉しそうに言うと、ぎゅうっとむつを抱きしめた。嫌がる素振りは見せなかったが、むつは少し寂しげな笑みを浮かべていた。




