うんめいとは
車に乗った山上は、一緒に後部座席にむつが乗り込むと不思議そうな顔をした。
「何だお前…」
「あのね、先に行きたい部屋があるの」
「ほぉ…どっちだ?」
「こっち」
むつは山上の手から資料をぴっと取った。山上は目を細めて住所を確認して、西原に伝えた。むつの手にある間取りを見ながら、山上は首を傾げていた。1LDKの間取りが特別というわけでも、設備が特別良いというわけでもない。
「ここさ、ペット可なの」
「他の所はペット禁止だったな。何か飼いたいから本命物件って事か?」
「ううん、ペット可なら防音性がしっかりしてそうだから。まぁ犬飼いたいなーってのは思うよ」
「それは無理だな。仕事で帰らない日だってあるだろ?そしたらどうするんだ?」
「社長か祐斗に…」
笑いながら言うと、山上はぱちんっとむつの額を叩いた。軽めのわりには良い音がしたと、むつはくすくす笑っていた。だが、すっと笑みが引いて突然、真顔に戻った。
「どうした?」
「ん、ここが違うってなったら後1ヶ所しか残ってないなーと思って」
「そしたら、また探せばいいだろ?」
「ホテル暮らしが嫌なの」
「優雅だろ?何でもやってくれる京井さんが居るわけだし。みやも毎日来てるだろ?」
「そりゃあ、ね…でも、あたしの家じゃない。家にしろーちゃんが来てくれるなら良いんだけどなぁ」
「お前ら兄弟って本当に妹離れも兄離れも出来てないよな?仲良すぎるだろ」
「血の繋がりないからかな?いちにぃとは親子くらい離れてるし」
「あー晃は本当に妹大好きだよな。俺がまだ警察にいた時に、何回か一緒に仕事したり呑んだりってしたけど…あいつ、パスケースに妹の写真入れててよ、それをよく見せられたな。ありゃ子供を溺愛する以上だ」
「…何かごめんなさい。いちにぃ、きもっ」
「まぁ実際、可愛いもんな」
「でしょー?なら仕方ないよね」
「………」
「黙るな‼しゃちょーっ!!」
無邪気にはしゃぐむつと山上の楽しげな笑い声を聞きながら、西原は小さく舌打ちをしてポケットのタバコを出して吸い始めた。




