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あこがれとそうぐう
マドレーヌをわって、その狐の口元に持っていくと、ぱくっとくわえてどこかに行った。
残ったマドレーヌを食べ、短くなってきたタバコを吸うとコーヒーのおかわりを入れてデスクに戻った。
再び、パソコンに向きカタカタとキーボードを叩き出した。休憩を挟んだからか、それともある思いつきが楽しみなのか、意外と事務処理ははかどった。
コーヒーを飲みながら、次の仕事をと思い積み上がっている封筒に手を伸ばしかけた時、ばんっと大きな音と共にドアが開いた。
驚いたむつはマグカップを落としかけた。落としはしなかったが、こぼれた中身がデスクの上で黒い染みを作った。
内心、舌打ちをしつつむつはドアの方に目を向けた。そして、また驚いた。ドア枠にしがみつくように、見慣れた男が立っていた。
疲労感たっぷりの男は、よろよろと入ってきた。いつもの、ひょうひょうとした様子もなく、むつの前まで来るとがっと両肩を掴んだ。
「そっ…颯介さんっ‼」
むつが名前を呼ぶと同時くらいに、ぬっと後ろから伸びてきた腕が、その男の頭を押し戻そうとした。