うんめいとは
西原駿樹という運転手が出来ると、山上は後部座席にゆうゆうと座って、タバコを吸い始めていた。
「…こーなるよな」
「そーなりますね」
むつはくすくすと笑いつつも、西原が運転する横顔をちらちらと見ていた。山上は何も言わずに、にやにやとしていた。
「何だよ?チラ見すんなよ」
「え、だって…社長の運転も初めてだったけど、先輩の運転も初めてじゃないけど滅多にないもん。何か気になるし緊張する」
「なら、お前が運転するか?」
「免許不携帯。それに、助手席のがいい」
「酔うくせにな。で、お前熱は?」
「下がった下がった」
「…何で、嘘つくんだ?」
「本当だよ?」
赤信号で止まると、西原は身を乗り出して、むつの額に自分の額をこつんっとつけた。瞬きすると、西原の眼鏡に睫毛が触れるような距離に、むつは少し顔を赤くしていた。
「…まぁちょっとあるくらいか?けど、顔赤くないか?本当に大丈夫かよ」
むつは西原の額を掴むようにして押しやり、不機嫌そうに大丈夫と言った。
「それより、前見てよ。信号変わった」
急に不機嫌そうになったむつを西原は、不思議そうに見つつもアクセルを踏んだ。
「…先輩、最近しろーちゃんに似てきた」
「え?何?」
ちゃんと聞き取れなかったのか、西原、聞き返してもむつは無視していた。後部座席の山上は、笑いを噛み殺しながら、外を眺めていた。




