うんめいとは
その夜、食事を終えて、薬を飲んだむつは自ら、さっさと布団に潜るとすぐに眠った。部屋に泊まっていく事にした冬四郎と晃は、むつが眠ると京井と共に軽く呑み始めていた。
「すみませんね、何から何まで」
「いえ、いえ…むぅちゃんも、お兄さん方がいらして嬉しいんでしょうね。お夕飯も昨日より召し上がってくれましたし」
京井は晃のグラスに氷を落とすと、焼酎を注いだ。ぴきぴきっと氷の音が鳴った。
「…少し、私からもお2人にはおはなししておきたい事もありましたし」
穏やかな横顔ながら、京井の目は真面目そのものだった。晃は焼酎を一口呑むと、グラスを置いて京井の方を見た。
「むつの事ですか?」
「えぇ…むぅちゃん、もしかして力が弱ってるんじゃないかと思うんです」
冬四郎が続きを促すように、京井の方を見ると京井は、焼酎を呑んでふぅと息を漏らした。
「…確定じゃありませんよ。私が思うだけですが、ちょっとこの部屋…多いんですよ」
「多い、と言うと?」
「その…霊がなんですけどね。普段なら、こんなに集まる事ないんですよ。何かに引き寄せられて来ているのかもしれませんが。それに対して、むぅちゃん何の反応も示さないんですよ」
「それは気にする程の物じゃないから、というわけじゃなくてですか?」
「寝ている時に、蚊がぶんぶん飛んでたら嫌になりませんか?それと同じだと思うんですけど…」
「だから、早く引っ越してっていうのもあるんでしょうか」
「かもしれませんね。でも、低俗な物であれば、むぅちゃんが一睨みすれば離れるはずなんですが…こうも、寄って来られているのに何もしないとなると、力が弱ってるんじゃないかって気がして…」
「気にしすぎ、じゃないですか?熱もあるし、そんなのに構ってられる余裕がまだないのかもしれませんし。体調が悪くて、力がって事もあるんじゃないですか?」
「そうかもしれませんが…」
京井はまだ何か気になっているのか、口を開いたが結局は何も言わなかった。
「いえ、そうですね。体調が戻ってみれば、いつも通りになるかもしれませんし…すみません、気にし過ぎですよね」
明るい口調で言った京井は、くいっと焼酎を飲み干して、とぽとぽと自らついでまた飲み干した。冬四郎は、そんな風にむつを常に気にかけてくれている京井に好感を抱いていると同時に、同じ物を見たり感じたり出来る事を少し羨ましくも思っていた。




