うんめいとは
「うぅ…痛いよぉ…」
布団から目元だけを出している女は、ごほごほと咳き込みながら寝返りを打った。乾燥するからとマスクをし、はぁと溜め息をついている。
「関節か?まだ熱が高いって事だな」
誘拐され監禁され、ずぶ濡れになったり、あやうく焼死しようとしたりと、つい昨日まで忙しかった女、玉奥むつは、大人しくベッドで横になっている。
「しろーちゃん、明日から仕事?」
「あぁ。監視が居なくなるから嬉しいか?」
しろーちゃんと呼ばれた男は、むつのベッドの横にある椅子に座ってのんびりと本を読んでいたが、ぱたんっと閉じた。しろーちゃんこと宮前冬四郎は、にっこりと笑みを浮かべている。
「でも、話相手が居なくなる…」
「何だ?寂しいのか?やけに素直だな?熱が高いからか?藤原さん呼んで点滴打つか?」
冬四郎は面白そうに、身を乗り出してむつをまじまじと見ている。むつは腹這いになると、冬四郎の方にじりじりと寄った。
「注射はいーやー」
「…そうだな。でも、だいぶ元気そうだな?」
冬四郎が手を伸ばして頭を撫でると、むつは心地良さそうに目を閉じた。
「うん、ゆっくり寝れたからね。でさ…あたしの部屋は?滅茶苦茶だし、引っ越ししたいんだけど」
「うーん…山上さんに頼むか?京井さんでも物件持ってそうだよな。まぁ元気そうなら明日にでも何件か見せて貰えばいいんじゃないか?」
「うん…ねぇ夜まで居る?」
「あぁ。京井さんが食事用意しますからって言ってくれたしな。お言葉に甘えようと思ってる…何だ?眠いのか」
こくっと頷いたむつの首に腕を回して、冬四郎は枕に頭を乗せてやった。
「居るから、寝なさい」
頭を撫でられているうちに、むつはとろとろと眠りについていった。




