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あこがれとそうぐう
むつの押さえた声が聞こえてきた。こさめ相手に話してるのだろ。冬四郎は、篠田の家に来てからのむつの様子を見て、そんなに動物好きだったかな、と考えていた。
それにしても、仕事の事で猫に話して相談するくらいなら、と思わないでもなかった。
そんな事を悶々と考えていると、いつの間にかむつが目の前に立っていた。むつは、眉間に皺を寄せて冬四郎を見ていた。驚いた冬四郎は、瞬きをしてむつを見た。
「何、一人で百面相してるの?」
「あ、いや…別に。ちょっと考え事な。お前、その気配も音もなく近付くの悪い癖じゃないか?」
「一緒に来て」
服装でこんなにも変わるのかと思う程、むつのあっさりと冷めた対応に冬四郎は少し寂しくも思った。
こさめを抱っこしたむつの後に続いて、冬四郎は寝室に入った。




