なつやすみ
むつは耳を澄ませた。どこからか、かすかに菜々の声が聞こえた。むつはグラウンドを走り抜けて、校舎に近付いて行った。
「なーちゃーんっ‼なーちゃーんっ‼」
「むつーっ‼」
声は校舎から聞こえてくる。むつは、菜々を探すようにして、校舎をじっと見つめた。すると、2階のどこの教室なのか、ちかっちかっと光りが見えた。
「きゃぁぁぁぁっ‼」
「なーちゃんっ」
菜々の悲鳴が聞こえ、むつはバッグを放り出して走った。校舎まで行くと、正面の玄関が少し開いていた。むつは、躊躇うことなく、するっとそこから入るとばたばたと階段を上がった。だが、階段の踊り場で足を止めた。息を止めて、じっとしていると廊下をばたばたと走る音が近付いてきて、遠ざかっていった。足音は2人分はあっただろうか。そうなると、今の足音は菜々ではない。
足音が遠ざかると、むつはそっと足音を立てないようにスニーカーを脱いだ。そして、それを手に持ってそろそろと階段を上がると、そっと顔を出して辺りを伺った。少し離れた所から、人の話し声が聞こえてくる。低い声で、しかも小さく何を話しているのか聞き取れなかった。
がたがたっと大きな音がして、何かが倒れるような音が続けて聞こえてきた。
「きゃぁあっ‼はーなーせーっ‼」
「うるせぇ、くそがき…っででで、噛み付くなくそっ‼」
がんっと大きな音がすると、菜々の声も聞こえなくなった。むつは、素早くその教室の前を通り抜けて、隣の教室に入りその様子を聞いていた。




