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あこがれとそうぐう
昨夜よりも勢いよく霊に当たり、それと同時にぼっと札が燃え上がった。だが、手応えはない。
札は灰さえ残さずに燃え尽きた。その一瞬の強い光に、篠田が身動ぎをしたが起きる気配はなかった。
起き上がったむつは、声のした方を見た。
「やっと口をきいてくれましたね、こさめさん」
こさめは、むつをじっと見ていたがとんっとベッドから降りてしまった。出ていこうとしているが、むつの方を振り向いた。ついてこい、という事のようだ。
むつは二人を踏みつけないよう気を付けて、寝室から出た。こさめはリビングのソファーに座っていた。
「いくら話し掛けられても、人前で喋るわけにはいかないわよ。最近、直弥はわたしを避けてるのに」
むつはキッチンに行き、コンロの上の蛍光灯だけをつけた。猫とは違って、真っ暗すぎるとよく見えないのだ。
「そうね、猫又になりかけてるみたいだけど…若すぎない?」
「そう、若すぎるわね。でも、ちゃんと何でなのかは分かってる。あの霊の事も」
「それなら是非、教えて頂きたいものですね」
「あんたよ、あんた」
こさめは器用に後ろ足だけで座ると、前足をぺろぺろ舐めている。




