なやめるおとめ
「社長っ…そろそろ出ましょうよ。いくら、むつさんが気になるからって尾行はよくないです」
「そうですよ。それに、相手が京井さんだって分かったんですから…もう心配ないと思いますよ」
むつが京井とにこやかに話をしたり、京井が恥ずかしそうにしたりと、何だか楽しそうな2人を同じ喫茶店の中で見ていたのは、颯介、祐斗、山上の3人だった。
「相手は京井か…?」
山上は、むむぅと唸った。だが、颯介と祐斗の言う通り。相手が確認出来たのだし、そろそろ出ても良いだろうと思った。
「社長は何を探ってるんすか?」
会計を済ませて、外に出るとずっと気になっていた事を祐斗は聞いた。
「むつの様子がおかしいからな」
「そうっすか?うーん、まぁ何かやつれた感じしますけどね。てか、まだ怪我治ってないんすか?練習来ないんすよね。プールには行ってるみたいっすけど…この前も見掛けたし」
「プール?」
颯介が市民体育館にプールなんて、あったかな?と首を傾げると、祐斗が駐車場の向こう側で離れた所にあると説明をした。
「道場に顔も出さないんすよね。前は月1くらいで来てたのに。彼氏でも出来たんすかねぇ、付き合いも悪いってなると」
祐斗が冗談で言うと、山上の両肩に手を置いた。そして、みしみしと力を込めた。
「何か知ってるのか?」
「え?」
「何か知ってるな?むつに彼氏が出来たんじゃないかって思えるって事は、お前、何か知ってるな?」
「え?いや…」
山上の険しく恐ろしい顔が、ゆっくりと近付いてくると祐斗は颯介に助けを求めようとしたが、颯介はくすくす笑っているだけだった。




