なやめるおとめ
仕事を終えて、さっさとよろず屋から出たむつは、電車に揺られながら携帯を確認した。待ち合わせの時間には、十分に間に合いそうだ。
むつは待ち合わせの喫茶店に入ると、窓側の席に座った。そして、注文を済ませると持っていた本を開いた。最近は休みの前には夕雨の所に行き、そうじゃない時は市民体育館のプールに通ったりで、夜はすぐに眠ってしまっていた。だがら、なかなかゆっくり本を読む時間もなかったのだ。
「むぅちゃん、お待たせしました」
「あら…全然待ってないよ。むしろ、来たばっかりだったからね」
声をかけられ、むつは本を閉じた。そして、向かい側に座った大柄な男、京井 遥和に笑みを見せた。
「…ちょっと痩せましたね。夕雨の所でだいぶ絞られてるみたいですしね」
むつは照れたように笑った。結果が少しでも、出てきたのだと思うと嬉しかった。
「けど、まだまだ落とさないと」
「あんまり根詰めてやるのも…どうかと思いますよ?急に体重落とすと、体調崩す元にしかなりませんからね。それに皮が弛みますよ」
「だから、運動してるの…けど落ちない。ってか、増えたの」
運ばれてきたアイスティーを飲みながら、むつは困ったように溜め息をついた。
「筋肉がついたんじゃないですか?脂肪よりも重たいですからね」
「ムキムキになりたいわけじゃ…」
「いえ、ですが、しっかり食べて運動して健康的な身体を作る事は大切ですよ。ましてや、大きな仕事となれば身体を使うんですからね」
京井はそう言いながら、封筒を差し出した。むつは、それを受け取り中の紙を取り出して、1枚1枚確認している。
「ありがと。もう何か…ざ、ダイエットメニューにも飽きてきた所だったのよね。早く痩せて、夕雨さんとも呑みたいし」
京井が用意してくれた低カロリーで高蛋白メニューを見ながら、むつは嬉しそうに笑った。
「あぁ、夕雨もそんな事を言ってましたよ。稽古をつけるのも楽しいけど、そんな事の為に手紙を出したんじゃないのにってね」




