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なやめるおとめ
「はぁ…難しいよぉ」
「そうそう、普通の人には難しいですよ。けど…1発しか喰らってないっていうのは見事ですよね」
かちっと音がして明かりがついた。
むつはその明かりに眩しそうに、目を細めた。そして、服が汚れるのも気にせずに地面にへたっと座った。
「お疲れ様でした」
懐中電灯を持った小太りな男、化け狸の勲衛門がタオルとペットボトルの水を差し出してくれた。
「ありがと」
ペットボトルのキャップを開けると、ゆっくり一口ずつ飲んだ。そして、はぁーっと息をついた。タオルで流れる汗を拭っても、またじんわりと浮かんだ汗が流れる。
「そうだな。リハビリ中だしな…足も完全に戻ったわけじゃなさそうだな」
「うん、まだたまに痛むかな」
「そんな状態で何でまた稽古をつけてくれなんて来たんだ?」
「遊びに来いって手紙貰ったからね」
むつはタオルを団扇のように動かして、顔に風を送りながら声がした方を見上げた。大柄で山伏のかっこうをし、鳥のような顔の鴉天狗の夕雨が困ったような顔をしていた。
「遊びにっていうのは、呑み相手、話し相手の事だ」




