うたげ
斜面が急になってくると、男の息が少し荒くなってきた。心配になったむつは、何度か下りますと言ったが、男は首を縦には振らなかった。
「…ん?何か来たな」
男は足を止めて、ぐるっと辺りを見回した。むつには、何が来たのか全然分からなかった。
「聞こえるか?声がする…友人たちが、お前を探してるのだろうな」
むつも耳を澄ませてみた。遠くからだが、むつーっと名前を呼ぶ声が聞こえる。男はゆっくりと屈むと、むつを下ろした。
「もう大丈夫だろうな。手当てちゃんとするんだぞ、それから…女の子らしく少し大人しくしなさい」
男はそう言うと、むつを置いてさっさと道を外れて山の中に入っていった。がさがさと草木の擦れる音が、あっという間に遠ざかった。
「むつーっ‼」
こさめの声が、はっきりと聞こえた。
「こさめーっ‼」
どこから聞こえたのか分からないが、むつも大きな声でこさめの名前を呼んだ。がさがさと音を立てて、こさめと京井が走ってきたのが、見えた。
「むつーっ‼」
「でぇっ‼」
走ってきたこさめが飛び付いてきて、踏ん張りきれずにむつは倒れた。足がずきずきと痛むが、心配そうな顔をするこさめを見て、嬉しくなった。
「むぅちゃん‼大丈夫ですか?」
「うん…足くじいちゃったみたいだけど」
そう言い、むつは溜め息をついた。
「心配かけちゃって…ごめんね」




