うたげ
「お、栗がなってるな」
「本当だ、柿もあったし…自生してるやつなのかな?」
「じゃないか?それに、野性動物も多いみたいだな…ほら、足跡がある」
冬四郎はしゃがんで、落ち葉を払うと土の上に付いている足跡を見ている。何の動物だろう、と足跡も見ながら呟いている。その意外と真剣そうな横顔を、むつは見ていた。
「仕事の癖が抜けないみたいね」
むつにくすくすと笑われ、冬四郎は膝についた土を払って立ち上がった。
「嫌な癖だよ」
「そ?けど、真剣に仕事をしてる男の人ってかっこいいと思うよ。さっき、社長も一緒に来て調べてたけど…意外とかっこよく見えたもん」
冬四郎は何かを思い出すように、空を見上げている。山上と仕事をしていた時の事でも思い出したのか、ふっと笑みを浮かべていた。
「あの人の場合はギャップがあるからな…お、あれ昨日も見たあけびかな?」
冬四郎が指差した先には、紫色に色付いたあけびがなっていた。むつが、嬉しそうに手を伸ばしながら近付いた。
「あ…」
むつの間抜けな声に、冬四郎は何が起きたのか分からなかったが、ずざざざっと枯れ葉の上をむつが滑り落ちていった。
「うっそ、だろ…むつっ‼」
冬四郎はむつが落ちていった先を覗きこんだが、枯れ葉や草が多くてむつの姿は見えなかった。
「むつ‼」
大声で呼んでも、むつからの返事はなかった。下りて行こうかと悩んだが、冬四郎は近くの木に上着を結びつけると走って離れの部屋に戻っていった。




