うたげ
黙って湯に浸かっていたが、冬四郎は気まずいのか、視線をさ迷わせている。
「…寝れなかったのか?」
沈黙に耐えられなかったのか、冬四郎がそう聞くとむつは、少しだけ冬四郎の方に顔を向けた。
「目が覚めただけ。で、遥和さんと少し散歩してきたの」
「京井さんも起きてるのか。あの人も寝るのは、かなり遅かったのに早起きだな」
「しろーちゃんは?」
「俺も何か目が覚めたんだ。それで折角だしと思って風呂に来たんだよ」
むつが、ふーんと返事をすると後ろからがさがさっと音が聞こえてきた。むつと冬四郎は振り返った。タオルもなく本当に丸腰の状態だったが、冬四郎はむつをかばうように前に出た。草木をかき分けて、白い大きな犬が出てくると冬四郎は、ぎょっとして固まっている。
「あ、宮前さんでしたか」
「え、京井さんの犬ですか?」
冬四郎は飼い犬かと、ほっとしている。
「しろーちゃん、しろーちゃん。遥和さんだよ」
「だから、京井さんの犬なんだろ?デカいな。犬種は何ですか?ウルフドッグってやつですか?」
冬四郎は何も分かっていないようで、京井の飼い犬だと思っている。
「違うって。この犬が遥和さんの本当の姿なの。犬神なの。忘れちゃった?」
頭を撫でようとしていた冬四郎は、むつの説明を聞き、ぴたっと動きを止めた。
「あと1時間程で、朝食となりますので…長湯しすぎないようにして下さいね」
犬の姿をした京井はそう言い、のっしのっしと草むらの中に歩いて行った。
「い、犬が喋ったぞ、むつ」
「だから、遥和さんなんだってば」
むつはそう言うと、冬四郎が背を向けている間に風呂から上がって服を着た。そして先に、離れの部屋に戻っていった。




