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うたげ
「入ったもん…」
ううっと唸りながら、ぐずぐずと鼻を鳴らしているむつはぺたんっと床に座り込んだ。冬四郎は手袋を外すと、ずり落ちたジャケットをかけ直して、その上からむつの背中を撫でていた。
「けど、もうほら居なくなったから、な?」
冬四郎は目のやり場に困っているのか、むつの方には視線を向けない。
「しろにぃぃっ」
むつはべそべそと泣きながら、冬四郎の胸元に顔を押し付けている。冬四郎は、むつの顔を見ようと視線を下げたが、くっきりとした谷間が目に入り、すぐに視線を反らした。そして、溜め息をつくとむつを抱き上げた。
「よし…風呂行こうか?京井さんに浴衣も新しいの用意して貰って、な?な?京井さん、新しい浴衣ありますか?」
抱き上げた事によって腕には尻が、顔のすぐ近くには胸がある状態になり、冬四郎は少しだけ後悔をしていた。
「えぇ、寝るときは向こうの離れをとの事でしたから、お風呂も浴衣も用意してありますから。こちらです」
京井に案内され、冬四郎はむつを抱き上げたまま、そそくさと部屋を出ていった。




