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あこがれとそうぐう
「颯介さんも飽きずによく社長に付き合ってやってられるよね」
マグカップをテーブルに置くと、むつは爽やかな雰囲気の男、湯野 颯介の隣に腰を下ろした。
「まぁ…楽しいよ。以外とね」
颯介は笑いながらコーヒーを飲んだ。
「うるさいぞ、真剣なんだからな」
無精髭の男、よろず屋の社長である山上はコーヒーをすすると、少しだけ顔をしかめた。
「濃い」
「頭が冴えるかと思ったんだけど」
しれっとむつが言うと、それ以上は何も言わずに山上はテーブルに置いてある碁盤に目を向けた。
先程からの唸り声は、颯介と囲碁を打っている山上が悩んでいる時にあげていた声だった。
ルールの分からないむつは、熱いコーヒーを冷ましながらゆっくり飲み、その勝負を眺めていた。だが、つまらない。
だからと言って、集中力の切れた今となっては仕事に戻る気もない。休憩という事で、静かにぱちり、ぱちりと碁石の置かれる音を聞いていた。