あこがれとそうぐう
むつがふっと目を開けた。
篠田の言っていた通り、何かが近くにいる気配がした。暗さに目が慣れるまで、じっとしていると篠田のベッドの脇に確かに女が立っていた。
「うっ…うぅ…」
篠田のうなされているよう声がした。
その女は、篠田の顔を見て居る。それだけで、何かをするような気配はなかった。だが、ぐるっと振り向いた女はむつの側に来るとじっと見下ろした。
見られているむつは急に胸の辺りを、圧迫されるような苦しさを感じた。女の顔は見えないが、この苦しさは女の仕業だろうと思った。
パーカーのポケットに入れてあった札を出すと、むつは女の顔の辺りに向かって投げた。札が当たると女は身を反らすようにして、札から逃れようとして消えた。それと同時に圧迫感はなくなった。
そっと布団から出て、篠田を見ると起きた様子はなく、今は呻き声をあげる事もなく静かに眠っている。
むつは、ほっと息を漏らすとドアの方に目を向けた。何かを感じたからではなく、何となく目が向いたのだ。そこには、月の光のように目を光らせた、こさめがじっと座っていた。
しばらく、むつとこさめは視線を合わせたままだったが、ぷいっとこさめはどこかに行ってしまった。




