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ゆめのうち
「おはよう…」
眠たそうな声と共にゆっくりとドアを開けて入ってきた男、湯野 颯介は仕事をする前から疲れきった様子だった。
すでにデスクでコーヒー片手に、パソコンとにらめっこしていた女、玉奥 むつは顔を上げないまま挨拶を返した。だが、いつもの、爽やかな様子は微塵もない声に気付いたのか顔を上げた。
むつのアーモンド形の綺麗な目が、眼鏡の奥で心配そうに細められている。
「寝不足?目の下に隈出来てるし」
「うん、ちょっとね…夢見が悪くてなかなか眠れなくてさ」
颯介にしては珍しく、大欠伸をしている。背が高いだけに、腕を伸ばして大欠伸をすると、天井に手が届くんじゃないかとむつは思っていた。
「身体じゃなくて、頭ばっかりが疲れてるんじゃない?運動しなきゃだよ…濃い目にコーヒーいれてあげる」
立ち上がったむつの背で黒く艶やかでいて、尻も隠れそうなくらい長い髪の毛が揺れていた。珍しくも三つ編みにしていない。
颯介は椅子に座ると、やる気はなかったがパソコンの電源を入れて、とりあえずメールのチェックから始めた。




