よっつのこわい
髪をふいて貰いながら、むつは前屈するように上体を倒して近くにある茶色のバッグを手に取った。中から櫛とオイルトリートメントの瓶を出した。
「だって、ねぇ…渡さないとお母さん悲しむもん。それに勝手に来る事なんて、あんまり無いよ?」
「あんまりって勝手に来た事もあるのか?」
「お父さんと喧嘩した時に、うちに家出してきたよ」
むつは、櫛とオイルトリートメントの瓶を冬四郎の前に置いた。
「そうか…これは何だ?」
「拭いたら櫛通して。トリートメントつけて三つ編みにしといて」
「それも俺がやるのか?」
むつは頷いた。
「あたしも、しろーちゃんの合鍵貰ってない」
「欲しいのか?」
髪をふく手を止めて、冬四郎がむつの顔を横から覗きこんだ。両足の間に尻を落とし、いわいるアヒル座りをしているむつ。むつの身体を挟むように膝を軽く曲げて、冬四郎は座り直した。
「けど、今日行ったの初めてだったし…あたしもお母さんみたいに突然行こうか?」
「何しに?」
「お洗濯と掃除して、ご飯作る?」
冬四郎は、くっと笑った。髪を拭いたタオルをカーペットに置いて櫛を取った。
「本当に母さんだな」
「そうね。見られて困る物は常に隠しといてくださいよぉ。櫛は毛先から」
「はいはい」
むつの長い髪は当たり前のように、床に届いている。毛先を手に取り、冬四郎は少しずつとかしていく。
「雷、音してきたな。かなりデカいな」
七分袖の服を着ていたむつの腕には、びっしりと鳥肌が立っているのに冬四郎は気付いた。




