19/1310
あこがれとそうぐう
「この子が、その喋る猫ですか?」
「えぇ…」
その猫を前にしてか、篠田は歯切れ悪く言った。どうやら、女の霊よりもこの猫の方が気味悪く感じているのだろう。
「んー?おちびさん、お名前は?」
むつは黒猫に話し掛けた。だが、当たり前のように、猫は返事などしない。それでも人の言ってる事を理解しようとしてるのか、むつの顔をじっと見ている。
返事がないと諦めると、篠田の方を見た。
「こさめ、です」
「こさめ、ちゃん?女の子ですね?」
篠田は頷いた。落ち着きを取り戻すかのように、コーヒーを飲んでいる。
「何歳ですか?」
「10、11歳でしょうか…」
「それにしても珍しいですね。こさめちゃんが、自分から出てきて大人しく抱かれてるなんて」
今まで黙っていた冬四郎が、むつの抱っこしているこさめの頭を撫でた。こさめは、嫌がるように身をよじった。
「あ、そういえば…普段はかなり人見知りするのに」
膝の上にこさめを下ろし、むつは耳の辺りをかりかりと撫でてやっていた。こさめは、気持ち良さそうにぐるぐると鳴いていた。
その様子を篠田は気味悪そうに見ていた。




