あこがれとそうぐう
「先程、宮前さんが軽くおっしゃってましたが…猫が喋ると女の霊が出るって言うのは、本当なんですか?」
「はい。1週間ほど前ですかね、夜中に目が覚めた時に足元に女性が居たんですよ。何かこう、きれいな」
むつは話している篠田の顔をじっと見ていた。嘘をついているようには、思えない。だが、少し様子がおかしい。
「最初は夢だと思ったんですが、日に日にその女性が近付いてくるようになったんです」
「それは目が覚めるたびに視えたって事ですか?」
「目が開いてないけど見える…っていうんでしょうか。見る時もあるんですがベッドのきむし感じとかが、やけに生々しくて」
「それで何かされた、とかって言うのは?」
「顔を覗き込まれるくらいですね」
ふんふんと頷いて、聞いていたむつが何か言おうと口を開けた。だが、それは言おうとしていたのとは、違う言葉になった。
「あら」
むつは足元に手を伸ばした。そして、足元からあるものを抱き上げた。それは真っ黒な猫だった。
随分と大人しいのかむつが抱き上げ、顔の位置まで持ってきても抵抗する事なかった。
「始めまして、綺麗なおちびさん」
むつは鼻と鼻をくっつけるようにして、挨拶をしている。それを見て篠田が少し、嫌そうな顔をした。




