ちぇんじんぐ
緊張で乾いた唇をぺろっと舐めた祐斗は、襟を掴む力を弛めするすると帯の上あたりまで手を下げた。そして、道着を開かせるように煽り、すぐに手の位置を上に戻し、そのまま体当たりをするように間合いをつめた。
袖は掴めていないが、手首を返し、肘を冬四郎の脇に入れるように持ち上げた。冬四郎がとっさに下がったのを見逃さず、押し倒すように大きく冬四郎の足の間に右足を入れ、冬四郎の左足を思いきり払った。
少しバランスが崩れた所で袖を掴かもうと、祐斗がまた一歩を踏み出した所で祐斗は冬四郎に袖を取られた。
「あっ‼」
と思った時には、バランスを建て直しもせず冬四郎は倒れそうな流れのままに、右足を軸にくるっと回り祐斗を投げた。
ばちんっと受身を取る音が響いた。頭を打たなかったし、冬四郎は祐斗の上に落ちる前に祐斗を跨いで何とかとどまっていた。
「あー負けちゃった」
畳の上に倒れたまま祐斗は、袖で顔を隠して、くっくっくと喉を鳴らして笑っていた。
すぐに起き上がらない祐斗を心配したのか、山上が駆け寄り抱き起こした。
「谷代君?ごめん、大丈夫か?本気でやり過ぎたかな?」
今更になって悪く思ったのか、いつまでも袖で顔を隠している祐斗の側に冬四郎と西原も駆け寄った。




