あこがれとそうぐう
冬四郎の不思議そうな顔を見ながら、むつも不思議そうな顔をした。そして、後ろを振り向いた。
相変わらず篠田は、静かに眠っている。
「篠田さん…変わりなし?」
「ん?起きる事もなく、だな」
「そう。呻き声が聞こえた気がして」
むつは、そう言うとしばらく身を乗り出すようにして、篠田の様子を伺っていた。辺りが暗くなり、あまり篠田の顔をはっきりとは見えないが、苦しんでるような素振りはない。
「そうか?俺には聞こえなかったし、お前も寝惚けてたんじゃないか?」
「うーん…かな?」
前を向くように座り直したむつは、何かを考えるように下唇を指先で撫でていた。
「何だ?本当に何かが篠田さんの身に起きてるのか?」
「今はどっちとも言えないけど…しろーちゃんは、どう思う?」
ハンドルを握り、前を向いたままの冬四郎は少し首を傾げた。
「俺には、そういうの全くないから分かんないけど…1番、ばたばたしてた時よりこうもやつれ気味なのは気になるな。ま、篠田さんのプライベートを知らないから、どっちも忙しかったんならこうもなるのかも?くらいにしか思わないな」
むつは頷きながら、聞いていた。
「でもな、気になるのは…あの篠田さんが怪異ってやつを恐れるとは思えないな。海での出来事を聞いてるから、むしろ喜びそうな気がするんだよな」
「それは、あたしも思うよ。よっぽど、何か、もしかしたら違う何かがあったのかな?謹慎中のしろーちゃんまで無理矢理駆り出してるくらいだから」
「あんまり、謹慎なのを言うな。俺は俺で気にしてるんだからな、後悔はないけど」




