みなうちに
「あー…節句ねぇ…そっか…社長はやっぱ凄いと思うわ。説明がざっくりでも何となく分かるもん…ってか、あんな説明されたら本当は何もかも知ってるんじゃないのって疑いたくなるから腹立つわね」
節句かぁとぶつぶつ呟きながら、むつはふらふらと倉庫に向かっていった。何か思い付いた事でもあったのかと、冬四郎と西原は顔を見合わせたが、どちらにも分かるはずがなかった。
「あれ?むつは?」
「また倉庫に行きましたよ。山上さんを疑いたくなるって、ぶつぶつ文句言いながら…どういう事ですか?」
コーヒーを受け取った西原は、ふぅふぅと冷ましながら一口すすった。さっきのように、倉庫で大きな音がしたりはしない。ただ時々、ことんっと音がする程度だった。
「さぁてなぁ…俺には分からないな」
何も分からないと言いながらも、山上の顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。冬四郎はそれに気付くと、何も言わずにこっそりと溜め息を漏らしていた。
「…ねぇ、社長?」
「あ?どうした?何か分かったか?」
「本当はもっと早く気付いてたんじゃないの?うちの子たちが、不機嫌で八つ当たりしてきたのも小鬼がちょろちょろしてた理由も」
「…あぁ、まぁ…呑んでる時にな。お前が花見がどうのって言ってただろ?それで、季節の変わり目の事を思い出してな」
「節句っていうのを聞いて、あたしは節分を思い出したわよ。次の季節の前日。立春、立夏、立秋、立冬…」
「流石、むつ。お前はよくよく俺の意思を汲み取ってくれるな。みやと西原にはそれがないから、ダメなんだ」
「…ちゃかさないで。もう…そう言えば、節分してなかったわね。小鬼がちょろちょろしてるのも、うちの子たちの気が充満しててかしら?」
「それはあるだろうな。悪いやつらじゃねぇけど、妖だからな。邪気は生じてくる…っても、事務所の中は嫌な感じしねぇけどな」
「あたしらが慣れてる可能性もあるわよ。とにかく…邪気祓いしてあげなきゃ」
「そうだな。俺らが気付かなくても、あいつらは空気が澱んでるって思ってたかもしれないな。だから、尚更に八つ当たりみたいな事してきたかもしれねぇし」
「…どうしたらいい?豆まき?」
「去年はどうしてやったか覚えてるか?」
解決の糸口が見付かったと、むつも山上もほっとしたような口調になっていた。だが、去年何をしたのかを考えていたむつは、あっと声をあげた。そして、言いにくそうにもごもごと呟いた。
「ん?何だって?聞こえなかったぞ…」
「も、燃やした…」
「え?な、何だって?」
「だから、燃やしたんだってば‼」




