みなうちに
むつと山上は揃いも揃って、腕を組んで首を傾げている中、西原も首を傾げていた。だが、考えている事は2人とは違う。
「…ぺら子は、何で倉庫に居たんだ?いつ外に出た?俺が掃除してる間にか?」
事務所、倉庫で何があったかよりも何故、人形が勝手に外に出てしまったのかの方が気になる西原は、メモ帳とボールペンを人形の前に置いた。だが、その答えは頷くか、首を振るかで答えられる物だったからか、人形はこくこくと頷いた。
「何で勝手に出たんだ?むつの忘れ物が無かったら、俺も戻っては来なかったんだぞ?家に帰ってからお前が居ない事に気付いても、探しようがないじゃないか」
怒っているでもなく、西原の声は心配するかのような優しさがある。山上と供に考え事をしていたむつは、そんな西原の声に気付いて人形を見た。人形もむつに見られてると知ってか、おどおどしているようでもある。
「お前も元の持ち主はむつだ。だから、勝手に動くのは仕方ないかもしれない。でもな、お前が俺の為にうちに居てくれてるのも分かってるけど、むつから預かってるようなもんなんだ。勝手に居なくなったら、むつに悪いだろ?」
人形は少し首を傾げるように、身をよじった。言われている事が分からない訳ではないのであろうが、理解は出来ない。そういう事なのかもしれない。だが、ややあって、人形はボールペンを持った。そして、がりがりとメモ帳に文字を書き始めた。
「…先輩はうちの子大切にしてくれてるね」
「当たり前だろ?役目があってうちに居るとしても、それだって終わる時も来るだろ?その時に、無事にむつに返せなかったら困る。お前だって、人形が行方不明じゃ心配にもなるだろ?」
「心配にもなるし、勝手に動かれると…こんなのが街中歩いてるのを見られたら…ね」
「だろ?全く…自分の意思で動くのはいい事だ。積極性があるからな。でも、心配はかけちゃダメだ。お前そっくりで困る」
「…はい…すみません…」
今はむつが何かしたわけではないが、人形の持ち主として謝らなくてはないないむつは、腑に落ちないと言いたげではあるが、とりあえず謝っておいた。
「みやの後輩はみやに似てくるな」
「すっごく困る…お兄ちゃんばっか増える」
「…諦めろ」




