みなうちに
「さて…ゆっくり話してたいけど、そうもいかないからさ。倉庫に居たよね?何があったか教えてくれるかしら?」
人形はこくこくと頷いた。素直に教えてくれるのだと分かったむつは、立ち上がると、ごちゃごちゃになった机の上からメモ帳とボールペンを探してきてテーブルに置いた。
「持てるかな?」
ボールペンを差し出すと、人形はそれを抱えるようにして持つと、少しよろよろしつつメモ帳の上に立った。
「…喋らないのか?」
「喋るわけないでしょ?口もないのに。あたしが使ってる時だって、あたしが言ってるだけで、この子たちが自ら喋ってるわけじゃないでしょ?」
「それもそうか…ふぅん…」
人形が懸命にボールペンを動かすのを、山上はじっと睨むように見ていた。むつが人形を使うのを何度かは見ていたが、やはりこれはむつが使っている風ではないと分かってか、ますます険しい表情となっていた。
「…ダメよ?この子には役目があるの。先輩を守ってもらわないと…次、何かあったら…立ち直れない。お兄ちゃんもまた泣く」
山上が破棄したいという顔をしているのを見て取ったむつは、念を押すように言った。
「…みやが?泣いたのか?」
「泣いてたよ」
ねぇ、と冬四郎に話をふると、冬四郎は知らん顔してそっぽを向いていた。だが、その分かりやすい反応に、本当にそうだったのだと分かる。山上と西原は、意外な物を見たと言わんばかりに冬四郎を見ていた。
「宮前さん俺の為に泣いてくれたんすね‼むつが、お兄ちゃんは先輩の事好きだよって言ってたけど、本当に俺の事好きで居てくれてるんすね‼」
「うるさいぞ、西原っ‼」
「みやが照れてる‼珍しいな‼珍しいぞ‼」
「照れると呼び捨てになるんですか?そんな分かりやすい反応されたら嬉しくて堪らないっすよ‼」
「うるさい、うるさい‼むつも余計な事を言うな!!お前だって、わんわん泣いてたくせに‼」
「はぁ!?当たり前でしょ‼先輩だろうと祐斗だろうと死んだら泣くわよ‼」
「じゃあ俺だって当たり前だ‼仲間が死んだら悲しいんだからな‼」
「なら照れなくていいでしょ‼なんなの‼もう!!」
むつと冬四郎が言い合いをしているのを他所に、人形は1人メモ帳をやっぶって次の紙にも文字をゆっくり書いていた。




