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あまいゆうわく
「…何だこれ?」
「見ての通り。チョコレート菓子」
「まぁ見れば分かるが…で?」
「味見して。何かさ味見ばっかりしたし、チョコの匂いが凄くって鼻がね…」
「成る程な」
小皿に乗っているのは、むつが作ったチョコレートテリーヌだった。昼間から篠田と何軒も呑み歩き、むつの部屋に来てからは、チョコレートの匂いを嫌というほど嗅いで先程は夕飯を食べた。だが、冬四郎は嫌とは言わずにフォークで一口サイズにすると口に運んだ。
「お、うまいな。ふぅん…お前チョコレート系は苦手だって聞いてたけど、成功したんだな」
「まぁね。どうかな…くどい?」
「そうだな…ずっしりくるな。飯の後だと重たいけど、いいんじゃないか?ちょっと酒入れてるな。それがあるから、大人向けって感受性がするけど」
「本当に?良かった」
ほっとしたような顔をしたむつは、ぽすっとソファーにもたれた。そんなむつを横目に、冬四郎は少しむっとしたような顔をした。
「…で、誰にやるんだ?」
「お父さんに」
「は?」
「お父さんに渡すの。この前の事もあるから、お父さんのは特別仕様にしたの。それにね、これ…」




