あまいゆうわく
「さて…と、お兄ちゃんはもうちょっと居てくれる?菜々を途中まで送ってくるから。祐斗、祐斗」
菜々がむつの寝室に入っていくと、むつはにこにこしながら祐斗を手招きしている。やけに上機嫌なむつを見た祐斗は、恐ろしいと言わんばかりに冬四郎を見たが、冬四郎は苦笑いをするだけだった。
「…何でしょうか?」
逃げられないと分かっている祐斗は、むつの元にやってきた。にっこりと笑っている祐斗は、むつから紙袋を手渡された。
「あの、これは?」
「先輩と会うでしょ?だから渡しといて」
「…むつさんの手作りですか?」
「………」
何故、時分で渡さないのだと祐斗が聞くと、むつは笑みを浮かべたまま首を傾げた。差し出されたから、紙袋を受け取ってしまったが、これを祐斗が渡すのでは意味がない。祐斗はそう思っていた。
「…これは、篠田さんとお兄ちゃんに作らせたやつだから。あたしからは後日…渡せたら渡す。こっちのは祐斗のね。で、先輩に片車輪にも渡してって言っといてね。日持ちはするから大丈夫」
もう1つの紙袋を無理矢理にも渡された祐斗は、作ったのが冬四郎と篠田だと聞いて、元となったチョコレートがどういうものなのか、ぴんときたようだった。
「大丈夫、あたしも食べてみたから」
「問題は…?」
「ない」




