あまいゆうわく
ブロッコリーのベーコン卵サラダに、人参と塩昆布の和えたもの、ほうれん草のミルクスープにナポリタン。手際よく作られた物が、テーブルに並ぶと祐斗の腹がくるくると鳴った。
「祐斗君、おかわりあるから食べてね」
菜々がくすくすと笑うと、祐斗は顔を赤くした。簡単にと言っても、4品も並ぶと凄く豪勢だった。彩りもいい。1人暮らしをしていると、ついコンビニ弁当に頼りがちだからか、理由も知らされずにむつに呼び出された事は、本当に良かったと思っていた。
「むつ、ビールまだあるか?」
「もうない。ってか呑みすぎ。今日はもう打ち止め。お茶でもあがれ」
冬四郎の前に、緑茶の入った湯飲みを置いたむつは、さっさと缶ビールとグラスを片付けた。冬四郎は昼間から、篠田と呑んでいた事を思い出してか、むつに言われた通りに緑茶をすすった。
「うまっ…ナポリタンってもっとこう、もったりしてるっていうか…麺がひっついてるイメージあったんですけど、全然そんな事ないですね」
「うん。生のトマト使ってるし、麺と合わせただけで、炒めなかったからかな」
「そうなんすか…菜々さんが作ったんですか?」
「え、うん…まぁそのくらいなら出来るし」
「…美味しいです」
「…あ、ありがと」
祐斗と菜々が、何やら恥ずかしげに照れているのを、面白くなさそうに見ていたむつだったが、冬四郎と目が合うと軽く肩をすくめてみせた。2人の距離が縮まった事は、はた目にもよく分かる。冬四郎は、ふぅんと言いながら菜々が作ったナポリタンを口に運んだ。




