あまいゆうわく
洗濯物が乾くと、菜々と祐斗はゆっくり他愛のない事を話ながら、むつのマンションへと戻ってきた。
「…またチョコの匂いが」
「してるわね。大丈夫かしら?」
洋服の入ったかごを祐斗に持ってもらい、菜々がノックをすると待ち構えていたように、こさめがドアを開けた。
「おかえり。お外寒っ‼」
「うん、寒いよ」
早々と部屋に入った菜々と祐斗は、キッチンに冬四郎と篠田が立っているのを見て、まだ何かやらされているんだと思ったが、2人とも口には出さない。それに、見てみぬふりをした。
「菜々、こさめの服を先にお願い」
「あ、うん。新幹線の時間あるもんね」
洗濯物が入っているかごから、こさめの服を取り出した菜々は、手早く畳んでいく。
「あ、朋枝さんいいですよ。畳まなくても、どうせすぐに着るんですから」
「かもしれませんけど…」
「菜々は1回畳まないと嫌なんですよ」
むつが言うと、篠田はへぇと意外そうに言っていた。
「菜々さん、意外と家庭的ですね」
「…意外なのは余計なお世話よ」
じろっと菜々に睨まれた祐斗は、失言だったと慌てて口をつぐんだ。むつはそんな2人のやり取りを、こっそりと見ていた。




