あまいゆうわく
危ないからと3人を下がらせたむつは、ぐるっと部屋の中を見渡した。あちこちに飛び散っているチョコレートをじっと見ていると、誰かが触れたわけでもないのに、ゆらっと動いた。床に水溜まりのようになっているチョコレートは、スライムのようにぷるんっとしてさえいそうだ。
「さ、ボウルに入りなさい。聞こえてるわね?そこの2人が、きちんと受け取ってくれるから。あなたたちの気持ちと一緒にね」
生徒を呼ぶ先生のように、ぱんぱんっとむつが手を叩きながら言うと、床に溜まっていたチョコレートが、ゆらっと頭を持ち上げるかのようにして動いた。
「…!?」
「お兄ちゃんも篠田さんも、しゃがんで。立ってたら、チョコが入れなくなる」
しゃがめ、とむつが手を上下に動かしている。ここは大人しく指示に従うしかないと思ってか、篠田はすぐにしゃがんだ。冬四郎も膝をついてしゃがみ、ボウルを床につけた。
「…手は離しちゃダメよ?」
「おい、むつ…」
このスライムのようなチョコレートが、こっちに来るのかと思うと、冬四郎は気味が悪くなりそうだった。だが、怪奇現象好きの篠田は、目をきらっきらと輝かせて、わくわくしている。




